-
海外武者修行の経験を糧に国内レースで上位入賞めざす
- スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(長距離走)の3種目からなるスポーツ、トライアスロンの魅力に小学1年の頃から夢中になり、いつしか競技の道へ。長正憲武選手は、トライアスロンでの世界最高峰のスポーツ大会出場をめざし、地元・福島にこだわりながら、トレーニングを続けています。
-
フランスで単身での長期合宿を経験
-
- ▲22年、長正選手は慣れ親しんだ福島を離れ、フランスの地で単身での長期合宿を敢行しました
長正選手が初めてトライアスロンに触れたのは、小学1年生の頃でした。地元で開催されたキッズ大会に出場し、結果は最下位でしたが「面白かった」という気持ちが刻まれ、その後、本格的に競技を続ける決心をしました。
中学3年生の時に、中学生の全国大会にあたる「オールキッズトライアスロン」でチャンピオンに。その後も着々と実績を積み上げ、福島大学に進学後はトライアスロンに少しでも役立つようにと、総合的にスポーツを学べる専攻を選ぶなど、自身の競技力向上に取り組んできました。2020年には、U23トライアスロン日本選手権で3位に入賞。着実に実績を上げています。
ただ、21年シーズンの最大の目標としていた「日本選手権で5位以内に入ること」はかないませんでした。「結果としては5位に届きそうな9位でした。5位に入るだけの力をつけることができなかったのが課題として残りました」
そして22年、長正選手は自身にとっての一つのチャレンジを実行しました。
「昨年の5月下旬にアフリカのチュニジアでレースがあって、そこに出場してからフランスに入ったのが6月上旬。その後8月下旬まで、フランスのオルレアンという町で、単身で長期合宿を行ないました」
日本では一人暮らしさえしたことのなかった長正選手。現地には日本トライアスロン連合のスタッフの方がいたそうですが、基本的には家を借りるところから日々の食事まで、すべて1人でこなしつつ、トライアスロンの強豪国でもあるフランスの選手たちと一緒にトレーニングをし、さらには現地の競技会に出場したといいます。
「そもそも自分は実家暮らしで、自炊の経験もほとんどありませんでした。そんな状況からの海外での一人暮らしでしたから、日常からして新たな挑戦というか、毎日が新鮮でした」
トライアスロンは、世界各地で開催されるワールドカップなどの各種レースで上位に入り、ポイントを獲得していかないと、最高峰の大会にも出ることができません。どんな土地に行っても良いコンディションを維持できるよう、慣れない生活環境に身を置いて生活してみることも立派なトレーニングになるでしょう。さらに、フランスはトライアスロンの強豪国です。現地の選手たちとトレーニングをし、レースで戦ったという経験は、長正選手の中にかけがえのない経験値として蓄積されたことは、間違いありません。
ただ残念だったのは、フランスでの合宿を終え、ブラジルでのレースに出場した長正選手は、帰国時に食中毒にかかってしまい、その影響で22年の目標であった国体とその翌週に開催された日本選手権で、思うような成績を残すことができませんでした(国体は20位、日本選手権は10位)。
「ブラジルから帰国した後も体調が戻らなくて、2週間ぐらい寝込んでしまったんです。国体にはやっとトレーニングを再開できたところでの参加でした。日本選手権も5位を目標としていたのですが、開催日が国体の翌週で、それでも最低限のラインにはなんとか入れたという感じでした」
長正選手にとっては散々なアクシデントとなってしまいましたが、「そういうことも含めて、22年は海外でいろいろな経験ができたと、プラスにとらえています」と、前向きです。むしろ、この経験とフランスの地で得た刺激を、23年でいかにプラスに作用させるのか、長正選手の腕の見せどころといえましょう。 -
地元貢献ができるスポーツのあり方を見つけていきたい
- 明治安田生命の「地元アスリート応援プログラム」のことは、信頼する指導者に教えてもらい、「生まれ育った大好きな福島にスポーツで貢献できる点に魅力を感じました」と語ります。
「小学生からずっとお世話になっているその指導者は、私の通っていた大学でスポーツ社会学を教えている准教授です。スポーツを通じて地域の社会貢献を活発に行なっている先生の影響で、自分のためだけに競技をするよりもまわりに貢献して競技をすることが、アスリートとして、また一人の社会人としても、より価値が生まれると考えるようになりました。大学卒業後も競技を続けていくうえで、地元の福島に貢献できる機会がないかと思っていたところ、まさに考えていたことができる『地元アスリート応援プログラム』を知り、共感しました」 -
- ▲「トライアスロンで地元に貢献したい」と語り、その活動こそが競技普及につながると考えます
自己実現や自分の喜びのためだけではなく、より多くの地元の方に、トライアスロンという競技の魅力を知ってもらい、地域を活性化させたいというのが、長正選手のイメージするスポーツを通じた地元貢献です。
「トライアスロンはまだまだマイナースポーツなので、地域貢献をすることで競技自体の認知度を広げつつ地域も競技も盛り上げていきたいと、福島の先輩たちともよく話しています。具体的には、地元で大会やイベントを開催することなどがあげられますが、県内や近県で開催されるレースで優勝することで自分の活動を発信し、さらには国体や日本選手権で表彰台に上がることで、地元を勇気づけられたらと思っています」 -
23年は国内で結果を出して知名度を上げ、県民の方に恩返しを そして23年、長正選手はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。
- 「2023年は、日本選手権が10月に東京で開催予定のため、そこまで国内のレースに専念するスケジュールを考えています。7月2日には、宮城県でスプリント選手権(オリンピックディスタンス※の半分)が開催されるので、そこをひとつの山場として、3位以内を目標としています。そして10月の日本選手権がもっとも大事なレースとして、5位以内を目標としています。一方、その前の週には国体(かごしま国体)があるので、こちらは3位以内を目標としています」
まず国内レースにこだわることにしたのは、海外レースの出場権を失っていることもあるのですが、「国内の大きなタイトルをしっかり取ることで国内での知名度を上げたり、あるいは国体で結果を出して、県民の方に恩返ししたりする1年にしたい」としたから。しかも、日本選手権があるために多くの国内選手がスキップする国体にも、長正選手は出場する予定だといいます。
「ずっと福島で活動してきて、福島に対する思いは他の選手よりも人一倍強いと自覚しています。やはり、県を代表して戦える大会というのはそこしかないので、国体は自分の中では外せない大会なんです」
海外のレースには、日本選手権の後に再度チャレンジしていきたいと、長正選手。「まずはきっちり国内で結果を出す」ことが、長正選手の23年のチャレンジであり、選択です。もちろん、その先にこそ世界最高峰の大会でのメダル獲得があると長正選手は考えています。多少の試行錯誤はありますが、地元に貢献しつつ世界最高峰をめざすという考え方に、ブレはありません。
※オリンピックディスタンス=スイム1500m、バイク40㎞、ランニング10㎞ -
地元・福島の皆さんからの支援を力に……
- 長正選手が地元・福島にこだわるのは、抜群の練習環境があるからでもあります。「トライアスロンの練習・トレーニングを行なううえで、非常に環境が整っている所であり、またおいしい食べものや温泉が数多くあるため、競技で疲労した身体を素早く回復させることができます」
-
- ▲オフの日には、近隣の温泉に行っておいしいものを食べたりするという長正選手
長正選手は、オフになると福島市の近くに点在する温泉に行っては、身体のケアをするそうです。ちなみに、長正選手はクラウドファンディングによる支援金を活用して、パーソナルトレーナーからフィジカルの指導を受けています。22年に比べてもひと回り身体が大きくなっており、その成果がうかがえます。
「もともと細かったので、体格に関しては伸びしろしかなかったという感じで(笑)。ベースとなる身体づくりは着々とできているという気がしています」
そして前述のように、海外での武者修行のようなチャレンジも実行できました。
「支援していただいたおかげで、これまでだと金銭的な面で迷っていたことも、一歩踏み出してやってみることができました。様々なチャレンジをしていくなかで、選択肢が増えるというのは本当に大切なことです。その一歩を踏み出す原動力となったことに、感謝しています」
ある意味孤独な、自分との戦いでもあるトライアスロン。しかし長正選手は、地元の支援や応援を文字通り力に変えて、チャレンジをつづけていきます。
(取材・制作:4years.)