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熊本・阿蘇の大地が生んだ「雨の申し子」 国内ユース王者からいざ世界へ
- 2022年のクロスカントリー・マウンテンバイク(XCMTB)ユース男子で年間総合チャンピオンだった内野友太選手は、23年からジュニアカテゴリーとなり国際大会出場が可能になります。コース状況を見抜く目と路面の変化への対応力はすでにトップレベルで、対応が難しい雨の日の走りはまさに無双。地元の熊本県では阿蘇山周辺を中心にコースが多く、人々の関心も高い人気スポーツですが、日本全体での知名度はまだまだです。国際大会で活躍することで日本中にXCMTBの楽しさを広めたいと考えています。
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ユース王者として臨む新シーズンは表彰台スタート
- 鎮西高校3年の内野友太選手が取り組むクロスカントリー・マウンテンバイク(XCMTB)は、山野を中心とした凹凸の激しいコースを走り、順位を競う競技です。そそり立つ急坂を登り、時には2mはあろうかという段差をジャンプして下ります。
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- ▲熊本・吉無田高原のコースを走る内野選手。変化の激しいコースへの対応が勝敗を分ける
22年は、Coupe du Japonシリーズ(日本自転車競技連盟公認の全国大会シリーズで、結果は日本代表の選出や世界大会への参加に影響する)ユース男子の部で年間総合チャンピオンとなり、強化指定選手にも選ばれました。23年からは一つ上のジュニアカテゴリーで戦い、8~9月にはオランダで武者修行することも決まりました。
国内のシリーズは4月から10月にかけて開催されます。ジュニアデビュー戦となるシリーズ第1戦Coupe du Japon 菖蒲谷(兵庫県たつの市)では、いきなり男子3位と幸先良く表彰台スタートを切りました。
「ジュニアのレースは初めてでしたが、ライダー同士ピリピリしたものではなく、競い合いながらお互いを高め合っていこうという雰囲気で力が湧いてきました。シリーズの試合は海外遠征やアジア選手権への参加やスタート順に影響するので、1試合1試合をしっかり走りポイントをとってランキングを上げていかなくてはいけません」 -
かっこいい「相棒」とレース出場も歯が立たず
- XCMTBとの出合いは小学5年の時。父親の友人が出るレースを観戦に行ったのが始まりでした。自転車で走れるとは思えない土の道を力強く走る姿に感激し、父親にやりたいと訴えました。
「それまで自分から何かをやりたいという子どもではありませんでした。それだけに父親もやる気を認めてくれたらしく、すぐにマウンテンバイク(MTB)を買ってくれました。GIANT製の白と紺のフレームのMTBはとてもかっこよくて、うれしくて、毎日15~16kmは乗りました」と当時を思い出して目を輝かせます。 -
- ▲レースに参加しはじめたころの内野選手
お気に入りの相棒を得て、内野選手はレースへの情熱が爆発します。ただ、結果が伴ったわけではなく、乗り始めて1週間で出場したチーム戦のレースは17チーム中15位。小学6年のときは全国大会に挑戦するも、試合前日の試走ですら他の選手に追いつけず、さんざんな結果でした。中学1年のとき、現在も所属する「Q-SHU UNION CJ UNIT」に入りますが、練習で先輩選手に周回遅れにされてしまうなど実力差を見せつけられるばかりで、「もう速い人とは走りたくない」と思うほどでした。
それでも中学2年のとき全国大会で7位、中学3年でCoupe du Japon 京都湯船のユース男子で4位になるなど一歩ずつ成長しました。 -
雨の日はまかせろ 武器はコース見抜く目と対応力の高さ
- 内野選手は自身の強みを「コースの状況を見抜く目と、路面の変化や瞬間的な動きへの対応力の高さです」と分析します。その強みが最も発揮されるのが、多くの選手が難しさを感じる雨の日のレースです。
最も自信をつけたのは、高校1年のとき出場した阿蘇観光牧場MTBクロスカントリー大会での勝利。雨でコースがぬかるむ中、最上位カテゴリーであるエリートカテゴリの森下尚仁選手に競り勝ちました。誰もが予想しなかった結果でしたが、内野選手自身は「雨ならいける!」と滑りやすくなったコースを的確に捉えて粘り強く走り続け、抜きつ抜かれつの激戦から最後に抜け出して先頭でフィニッシュしました。
「雨で泥だらけとなったコースは得意です。滑りやすくて予測不能のスリップを誘発しますが、そういう状況こそ自分が試されていると思ってワクワクします。地元阿蘇のコースは赤土も黒土も混ざっているので、ひとたび雨が降ると路面の状況を把握するのが難しくなります。それを瞬時に判断してバイクの動きを想定しながら走るという練習の積み重ねが自身の強みにつながったのかもしれません」 -
菊陽町の水と野菜はまさに絶品! 自転車を通じて地元に貢献したい
- 地元の熊本県菊陽町は阿蘇カルデラから流れる白川を中心に、自然の恩恵を受けてきた町です。水道や田畑の水は阿蘇の山域からろ過されてきた地下水でミネラル豊富。水のおいしさに定評があり、内野選手は「他県に出かけるときは必ずボトルに水を入れて持って行きます」。
そんな水で育った野菜の味も絶品で、「子どもの頃からニンジンとピーマンが大好きで、テレビなどで『嫌い』と言っている子を見て不思議だったんです。その後、他県に行くと野菜の味が全然別物で驚きました。菊陽町の野菜はみずみずしさや香りが全然違うんです」と話します。
熊本には阿蘇の大地を利用したXCMTBコースが多く、ライダーも他地域と比べて多いといいます。エリート(国内最上級クラス)のダウンヒルライダーとして活躍する山本一晴選手も内野選手と同じ町内に住み、子どもの時は一緒にマウンテンバイクで遊んでいました。XCMTBの楽しさを知るだけに、もっと魅力を伝えてこの競技を楽しむ人たちを増やしたいと考えています。 -
- ▲22年、ユースの年間王者となった内野選手。23年は世界での活躍も見据える
「XCMTBは走るだけでなく観戦も楽しいんです。選手によって下りが得意だったり登りが得意だったりして順位が入れ替わることが多く、脚力だけでは決まらないので最後の最後まで見応えがあります。山の中でやることが多いので観戦しにくいのが難点なのですが、XCE(クロスカントリー・エリミネーター)という競技は街中が舞台で、階段などの人工物がコースにあります。スピード、そしてこんなところも上り下りできるのかというライダーの技術が面白いと思います」
XCEの大会は国内では千葉県などでしか開催されていないそうですが、「将来は地元の市街地などでもXCE大会を開催して、たくさんの地元の人に観戦してほしい」と考えているそうです。
夢はXCMTBをもっと日本で広めること。そのためには国際大会などで結果を出し注目されることが必要です。ジュニアカテゴリーになったことで国際大会への参加も可能になりました。海外遠征を考えた時、明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」を知りました。
「友人の親が明治安田生命に勤めていて、私がXCMTBで国際大会へ挑戦しようとしているのを知りプログラムを紹介してくれました。明治安田生命といえばJリーグのパートナー会社で、地域やスポーツ文化を大切にしているイメージがあります。そのような会社のプログラムに参加することでXCMTBの普及や地元の菊陽町に貢献したいと思います」
多くの人に競技に親しんでもらうことで、日常生活にも良い影響が出ると考えています。「自転車は乗れば乗るほど上手になります。たとえば凹凸のあるコースで自転車に乗っていただき、ブレーキのかけ方をしっかり覚えれば、事故に遭うリスクも減らせる。ヘルメットの重要性もわかってもらえます。地元でそんな活動もしていきたいです」
(取材・制作:4years.) - ================
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