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世界最大のパラスポーツ大会でよい成績を残し地元の皆さんと喜びを分かち合いたい
- 人と馬とが信頼関係を築き、技の正確性と芸術性を競うパラ馬術競技。吉越選手は中学で馬術を始め、2015年の全国障がい者馬術大会で初出場初優勝。高校3年生の時に出場した18年の世界馬術選手権での6位入賞を皮切りに、数々の国際大会に出場し、2021年は世界最高峰のパラスポーツ大会にも出場しました。
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社会人アスリートとして本場ヨーロッパの馬術大会を転戦
- 東京都出身で、23年春に日本体育大学を卒業した吉越奏詞選手は現在、アスリート社員として住宅設備総合商社の株式会社小泉に入社。社会人アスリートとして乗馬の本場、ヨーロッパでの国際大会に出場しています。
「仕事はやはり責任が伴うので、気を抜かないでやっていこうと思っています。障がいのある私を受け入れてくれたことに感謝して、世界最高峰のパラスポーツ大会で良い成績を残して地元の皆さんと喜びを分かち合いたい」と、吉越選手は抱負を語ります。 -
馬との出会いで生まれた奇跡
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- ▲リハビリのためにポニーに乗り始めた。写真は3歳の頃
吉越選手が馬に初めて乗ったのは、幼児期の時。地元・目黒区の碑文谷公園で行なわれていたポニー教室に6歳違いの兄が通っており、先天性の脳性まひという障がいを持って生まれた吉越選手が、馬に興味を示したのがきっかけでした。母親が地元の療養型医療施設「すくすくのびのび園」に掛け合ったところ、それまでなかったポニーセラピーを受けられる乳幼児コースを作ってくれたのです。
「他のリハビリは嫌がって泣いていたらしいのですが、ポニーセラピーだけは初めから怖がりもせず笑っていたそうです。きっとそのときから楽しかったんだと思いますし、ものごころがついてからはずっと楽しくて、その気持ちは今でも変わりません。僕は、生まれた時に『将来、車いす生活になる』と言われていたのですが、馬に乗って歩けるようになりました。その喜びもとても大きかったです」
吉越選手が中学1年生の時に、世界最高峰のパラスポーツ大会が東京で開催されることが決定しました。その瞬間、乗馬がリハビリから、大会という明確な目標を掲げて取り組む競技へと変わったのです。
「開催決定の翌日、朝ご飯を食べながら家族に『パラ馬術で出場したい!』と宣言しました。馬術は“人馬一体”という言葉の通り、馬との信頼があってこそ成り立つスポーツ。僕は、体の右側が弱いんですが、それを馬もわかってくれているみたいで、いつも守るような動きをしてくれるんです。僕は、芸術ともいえる馬の美しさをどれだけ引き出してあげられるか、いつも意識しています」
その熱い思いを込めて書いた作文は、東京都教育委員会賞を受賞。「その後、島根県で開催された全国障がい者馬術大会の3部門で優勝しました。そのときには、夢ではなくて実現できる、したいって気持ちに変わりました。地元の人からも『頑張ってください』って応援の言葉もいただきました」 -
障がいを持った方や子に馬の素晴らしさを伝えたい
- 明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」に応募したのは、目黒区役所の職員からの紹介がきっかけでした。「支援金をいかし、自分が活躍することで、パラ馬術を広めたい」と話します。
「馬術はとてもお金のかかる競技で、負担が大きいことを相談させていただいたところ、このプログラムを探してくださいまして、ぜひ参加したいと思いました。僕の生い立ちや経験を障がいを持った方や子どもたちにも知ってほしいし、少しでも力にしてほしくて。それに何よりも実際に馬に触れ合い、喜びを感じてもらいたいんです」
22年は4月のベルギー大会からヨーロッパでの国際大会に出場し、8月にデンマークで行なわれた世界馬術選手権では10位。23年も転戦をしていますので、海外遠征の費用は高額になります。また、馬術ならではのものがパートナーとなる馬にかかるお金です。
「22年8月の10位は、そのときに組んだデュエット号との中ではベストな順位でした。馬術は、乗る馬は決まっていません。それぞれの大会で、前もってマッチングしてパートナーを選びます。大会によっては、今回もあの馬に乗りたいということはできますが結構値段がかかります。パートナー選びのポイントは、自分の意思をちゃんと聞いてくれる、自分の障がいを理解してくれる馬に出会えるか」 -
- ▲23年4月のベルギーでの国際大会ではエクセレント号とのペアで6位入賞
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24年の世界大会出場へ「気は抜けない」
- 尊敬するアスリートは、同じパラ馬術でいくつもの金メダルを獲得している英国のリー・ピアソン選手。
「馬の良さを引き出す工夫が素晴らしいベテラン選手です。人柄も素晴らしくて、機嫌が悪いところを見たことがありません。僕のような若い選手にも気さくに話しかけてくれて、いつも勉強させてもらっています。僕も、ピアソン選手のように一生のライフスタイルとして馬術を続けていきたいです」
23年は4月のベルギー大会を皮切りに、国際大会に参戦します。同時に24年の世界最大のパラスポーツ大会に向けてコツコツと成績を残して経験を積み重ねていくことも重要です。吉越選手は23年強化指定選手に選ばれていますが、24年の大会の出場選手が決まるのはこれからです。吉越選手は「手応えは感じていますが、気は抜けない」と言います。
「2021年は、13人中10位という成績で、正直悔しさが残った大会になってしまいました。でも、この悔しさを次に生かす力に変えて頑張ります」とも語っていた吉越選手。2大会連続の出場に向け、気力は十分です。 -
強くなり、経験を伝えることで地元に恩返しを
- 「障がい者のリハビリになる乗馬のプログラムが浸透しているのも、競技の本場も、ヨーロッパです。お金はかかりますが、現地を見ないことには強くなれないんです。支援金は大切に使わせていただき、僕が十分な成績を残すことで、これまでお世話になった地元・目黒の方々や応援してくださっているすべての方々に恩返ししたいです」
ヨーロッパでは馬術専門の番組があったりして、親しみやすい競技となっています。吉越選手も参戦した際、競技場で歩いていると「日本人だ、こんにちは。さっきの演技は良かったよ」と声をかけられたこともあり、フレンドリーな環境を楽しんでいます。
シーズン中は大会ごとにヨーロッパに行く吉越さんが、帰国した際に必ずと言っていいほど立ち寄るのが、自宅から10分くらいで行ける原点でもある碑文谷公園です。
「公園にはポニーがいたりします。公園の外から、放牧している馬を見るだけでも癒されます」
「障がいを持った子どもたちには、もっともっと上をめざしてほしい。夢を持ち続けてほしい」という吉越選手。お世話になっている地元の人々だけでなく、障がいを持つ子どもたちにも勇気を届けます。そして、その言葉はさらなる高みをめざす吉越選手自身へのエールでもあるかもしれません。
(取材・制作:4years.) -
2023年最後の試合はヨーロッパ強豪との闘い
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加藤規子