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攻めた滑りに注目! 着実な成長を見せるスノーボードアルペン期待の新星
- スノーボードアルペン競技における期待の新星、地下綾音選手が、いよいよ世界の舞台で頭角を現してきました。22~23シーズン、初めて全日本スキー連盟(SAJ)の強化指定選手に選ばれたことで、初の海外遠征での競技会参戦や代表選手が集まる合宿を経験。何事にも真摯に取り組む姿勢もあいまって、その成長ぶりに大きな期待が寄せられています。
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「私がやりたいのはアルペンだ!」と直感!
- スノーボードを始めたのは小学2年生の時。最初は思い通りに滑れず、早くみんなと一緒に滑りたい一心で練習に向き合っていました。3年生になると、地元のスノーボードスクールで習い始め、さらにのめり込んでいきました。競技の面白さにハマると、「スノーボード検定1級に合格したい」「大会で優勝したい」と、目標を立てて練習するようになりました。
「練習することや努力することの楽しさ、そこから得られる達成感や喜び、悔しさなど、競技をする上で大切な感情が、自分でも気づかないうちに芽生えていたんです」
4年生の時には、ゲート(ポール)を立てての滑走を初体験。「私がやりたいのはアルペンだ!」と直感した瞬間でした。5年生になると、スノーボードアルペンの練習を開始。登別を拠点とするスノーボードチーム「SIG-NATURE」に所属して本腰を入れることに。夢中になって競技に取り組むうちに、自然にトップをめざす気持ちが芽生え、いつしかそれは、アスリートが夢見る究極の目標へと進化していきました。世界の夢の舞台で金メダルを取る。この大きな目標に向かって着実に成長を遂げています。 -
- ▲この1年で着実に成長し、世界で戦うための力が備わってきました
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大きな成果をもたらした初の代表選出
- 22~23年シーズンは競技生活において、一つのターニングポイントとなりました。「初めて海外遠征したり、初めて日本代表に選ばれて合宿したりと、今まで以上にいろんな経験や練習、トレーニングをさせてもらって、自分の実力も上がっていきました」
シーズンの総仕上げとして参加した23年4月の全米選手権。地下選手はPGS(パラレルジャイアントスラローム)で3位に入りました。ジュニア大会ではなく一般対象の米国での大会ですから、大きな自信となったことは間違いありません。
こうした成果をもたらした要因の一つが、代表合宿に参加できたことでした。「練習で動作解析をするために小型カメラやドローンを使って自分の滑りを見ることができたり、コーチとたくさん話し合ったりするという環境が違ったと思います」
最先端のトレーニング環境が整ったことで、自身の改善点もすぐに分かりました。「ドローンで自分の滑りを上から見ることで、滑っているラインを分かりやすく見ることや、ミスした時にその原因をいろんな角度から見ることができ、改善する方向性が分かりやすくなるなと感じました」
練習環境だけでなく、世界レベルの大会出場へとステップアップしていくためにも、やはり強化指定選手であることは大きなメリットがあります。
地下選手の最終目標は4年に1度の世界大会で金メダルを取ることですが、そのためには、ワールドカップやその上の位置付けの大会に出場できるようになる必要があります。そしてワールドカップに出るためには、北米や欧州で開催される大会(FIS〈国際スキー連盟〉レース)に出て、高いポイントを獲得しなくてはなりません。
「来シーズンも、(代表遠征で出場した欧州での)同じ大会でもっと上位に入って、ポイントを取れるような実力をつけるというのが、次の目標となります。そのためには、もっと体力と筋力をつけたいですね。海外でいろいろな選手を見て、同じ年代の人でも全然体力が違うし、そういう選手はどんな状況でも速いと感じました。レースではいろいろな条件の下、最後の決勝まで滑り切らなくてはいけません。自分の滑りを最後まで出し切れる体力と筋力をつけることが、オフシーズンの目標です」 -
別のスポーツをすることで楽しみながら体力アップ
- オフトレーニングは、地下選手にとって非常に重要なポイントとなります。これまでと同様に、ジムでのトレーニングや高校の陸上部での活動に加え、トレイルランニング、スケートボードにサーフィンなど別のスポーツをすることで、体力や筋力、体幹にバランス感覚など、競技に必要なあらゆる力を、別のスポーツを行なうことで楽しみながら向上させていきます。
「陸上部で練習するのも、友達と学校で話すのもすごく楽しいですし、高校では英語に特化したクラスにいて、授業では他の人と意見を交わしながら交流するので、自分の考えや自分自身と向き合う機会が多くて、とてもいいなと感じています」
全米選手権で3位に入った時は、表彰台で他の選手とコミュニケーションをとったそうです。また、本番で実力を発揮するには強いメンタルが必要と考え、アスリートの書いた本を読んで、メンタルの保ち方を勉強しているといいます。すべての環境を力に、スノーボーダーとして、あるいはアスリートとして、着実に成長の階段を上っている様子が伝わってきます。 -
将来は地元・北海道に貢献したい
- 「私が生まれ育った北海道は、自然が豊かで美しい生き物がたくさん生息しています。登山中にヒグマに出合ったこともあるし、登下校中に見かける花やチョウはとてもきれいです。そして何より、地元に暮らしている方々が優しく接してくれるから、北海道が大好きです」
そう語る地下選手は、練習や大会のためにスキー場に赴く際も、様々な方に協力してもらってきたと振り返ります。役場の方が駅からスキー場の宿泊施設まで送ってくれたこともあれば、道に迷っていた時に声をかけてもらったこともありました。その度に、「将来は地元・北海道に貢献できる人間になりたい」という思いが強くなっていきました。
この春には、通学や遠征の際の利便性も考え、札幌市に居を定めたそうです。
「近くに軽川という川があって、河川敷でランニングしたり、お散歩したりするのが好きです。春は桜がきれいで、好きな場所です。とてもリラックスできます。30年冬に、地元で世界最高峰の大会が実現したら、ぜひ出場したい。実現したら、そこで金メダルをとるのが、私の大きな夢です」 -
- ▲住まいの近くにある河川敷がお気に入りのランニングコース
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活動報告をすることでつながりが感じられるのがうれしい
- 「スノーボードアルペンは、速さを競う競技です。細かいルールを知らなくても、誰が勝ったかはすぐに分かるので、スピード感とスリルを楽しみながら見てほしいです」と、競技の魅力をアピールします。
地下選手自身の滑りの特徴については、「攻めたライン、攻めていく姿勢を見てほしいですね。特にジャイアントスラロームは、ぐっと板を押さえつけて、その反発で進んでいくという感じ。大きい反発をもらうためには、筋力面が大事になってきます」と教えてくれました。
これまでのクラウドファンディングで集まった支援は、「海外遠征や合宿の費用に充てさせていただきました」と地下選手。前シーズンは3回の海外遠征を行ないましたが、全米選手権の出場は個人でエントリーしたそうです。
「競技を続けていくためには多くの費用が必要であることは事実で、現在その大部分を母が仕事を掛け持ちしてまかなってくれています。合宿や海外遠征、大会に参加するためには、それ以上の費用がかかります。これからも夢を追いかけていきたいと思い、今回もプログラムに応募させていただきました」
今後の彼女への支援は、まさしくアスリートの成長を支える土台となることは間違いありません。
「日本各地で頑張っているアスリートを応援しようという取り組みは、競技をやっている私たちにとっては本当にうれしいことですし、目標を実現するための大きなチャンスになると思っています。また、支援していただいた皆さまに活動状況を報告することで、自分のなかで整理できたり、お会いした時に頑張っているねと言ってもらったり、そういうつながりが感じられるのが、すごくいいなと感じています。サポートしていただくことへの感謝の気持ちを忘れず、一つひとつ確実に結果を出していきたいです」
23~24シーズン、地下選手はどんな成長した姿を見せてくれるのでしょうか。これまでのステップアップを考えると、今から本当に楽しみです。
(取材・制作:4years.)