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2度の大手術を乗り越え、世界中を魅了するスノーボーダーへ上りつめる
- 4歳から競技を始めると、小学生以降、世代のトップを走り続ける鍛治茉音選手。肩の手術や、前十字靱帯の断裂など大けがが続く試練のシーズンを乗り越え、彼女がめざすのは4年に1度の夢舞台。どんな技も魅せる“鍛治茉音”スタイルで世界中から「ヤバい」と言われるスノーボーダーをめざします。
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世界でも存在感を増している、世代のトッププレーヤー
- ゲレンデに掘られた半円筒状ともお椀形ともいえるコースを滑りながら、空中でトリック(技)を決めるハーフパイプ。富山県出身の鍛治茉音選手は4歳からスノーボードに乗り始め、幼少期はイオックスアローザ(南砺市)などの地元のスキー場でトレーニングを積み、小学校入学以降は世代別の大会で常にトップクラスの成績を残しています。
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- ▲9歳の頃、富山県内のスキー場で
「高いところから見る景色が好きです。高く飛べば飛ぶほど、滞空時間が長くて気持ちいい。鳥になって空を飛んでいる気分になれるんです」
ハーフパイプの魅力をそう語る彼女は、その高さを強く意識したスタイルで2020年1月にスイス・ローザンヌで行なわれた ユース世代の国際大会で銀メダルを獲得しました。
21年1月にはスイスのラークスでワールドカップにデビュー。「トップ選手がいて、盛り上がり、注目度が違うと改めて実感しました」。結果は11位でしたが、大舞台での経験をすぐに生かし、3月にロシアで行なわれた世界ジュニア選手権では優勝を果たしました。22年1月のワールドカップでは10位と、世界の中でも鍛治選手の存在感は年々増してきています。 -
本格的な施設、高い雪質を求めて。数多く海外を経験するために
- 中学生の時から地元新聞などが彼女の活躍を報じており、それを目にした母親の同僚が勧めてくれたことがきっかけで、20年から明治安田生命の「地元アスリート応援プログラム」に参加することになりました。富山で育ったことへの思いは強く、この制度の趣旨に納得もできました。
ハーフパイプの技術強化には雪質の高さと国際基準の環境が欠かせません。その競技仕様のコースは、国内では北海道、青森、岐阜などの限られたスキー場にしか存在しません。それ以外で滑るにはどうしても海外遠征が多くなってきます。
また、ワールドカップのような大きな大会に参加する費用も、強化費を使えるのは一握りの選手だけ。集まった支援金は主に海外遠征や合宿のために使われる予定です。現在は、コロナ対策を徹底することで交通費も大きくかさんでしまいますが、目に見える形で支援を受けたことで、「もっといい結果を出して応えていきたい」と気持ちを新たにしています。 -
地元を離れての新たな挑戦。離れて改めて感じる富山の魅力
- 23年春に愛知県の中京大学に進学。地元を離れて、新たなチャレンジに挑み始めました。「大学は施設が充実しているので、富山ではできなかったようなトレーニングにも取り組んでいます。まだ始まったばかりですが、この環境を生かしていきたいです」と鍛治選手。
近年は遠征も多く、地元にいられないことも多い彼女ですが、「空気が良く、食べものはなんでもおいしい」と富山県や魚津については強い愛着を抱いています。海外遠征から帰ってくるとすしや特産のシロエビなどを食べるそうです。
「私が生まれ育った富山県・魚津市は本当に小さな町なので、周りの人はみんな知り合いのような感じです。だからこそ温かさが伝わってくるし、競技もより頑張ろうと思えるんです。海がとってもきれいで、愛知にいる今でも天気がいい日などは改めて気持ちのいいあの景色を思い浮かべますね」と、地元への思いを語ります。 -
競技を一生続けたい。ゲレンデを愛する生粋のスノーボーダー
- 「スノーボードはずっと楽しいのでやめたいと思うことはなかったです」
これまでの競技生活をそう振り返る鍛治選手ですが、「この技できない。どうしよう」という戸惑いや足踏みはあっても、嫌いになることは一度もなかったといいます。ただ、中学時代は競技と勉学の両立が難しく、思うように通学できない時期もありました。
「中学1年生の時は学校が楽しくて楽しくて。(満足に)学校に行けないことや、学校に行けても話題についていけないのもつらかったです」
それでも実際にゲレンデを滑り、コースに入って滑ると、内面から楽しさや気持ち良さが込み上げてくる。そんな生粋のスノーボーダーでもあります。 -
2度の大きなけがをきっかけに、滑りの研究に専念
- 滑ることが大好きな彼女ですが、22年の3月に肩の手術を実施。「慢性的に悩まされていた肩の痛みが日常生活にまで悪影響を与えるようになったので、手術を決意しました。これまでけがをしたことがなかったので、自分にとっては大きな決断でした」
手術は無事成功し、当初のプログラム通り半年で競技復帰した彼女ですが22年にまたもや試練が訪れます。12月に訪れていたスイスで前十字靱帯を断裂。現在は懸命にリハビリに励んでいます。「肩のけがから復帰して、ようやく雪上にあがれるようになったシーズンでのけがだったのでショックでした。でも、肩のリハビリ中に行なった滑りの解析などがしっかりと身になっていた感覚もあるので、今回も焦らずにできることだけを着実に積み重ねたいです」と鍛治選手。半年後に雪上に戻ることをめざし、可能な限りのトレーニングとリハビリを続けていきます。 -
どんな技も鍛治茉音スタイルで魅了! 憧れられる選手になりたい
- 周囲からは4年に1度開催される国際大会への出場を期待されていますが、彼女は「目標の一つではあるけれど、ゴールではない」と話します。彼女がめざすのは、世の中に自分の滑りを発信するために大きな舞台で勝てるような選手になり、そこで「ヤバい」と言ってもらうこと。
「あの滑りはヤバい。まねできない」
「女子なのにあの高さを出せるのはすごい」
女子には難しいトリックを決めて、格好いい滑りを見せること。そのために、フロントサイドダブルコーク1080などの大技に取り組んでいます。スノーボードでは同じ技でも見せ方、回転の方向などで個性が顕著になるところが大きな見どころなので、どの技でも鍛治茉音スタイルで完成度を高めることが理想です。「気合もイメージもバッチリです。コーチと計画を立てているので、あとは頑張るだけです」。新しいシーズンはワールドカップで結果を残すことで、4年に1度の国際大会出場の可能性も出てきます。 -
- ▲ダイナミックな技を決める鍛治選手。雪上復帰をめざし懸命にリハビリに励みます
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「みなさんのおかげで勝てました」と伝えられるように、良い結果をめざしたい
- 「どんなに頑張っても、感謝を口に出せてそれが伝わるのはやっぱり結果が出た時だと思っています。『練習の時に使わせてもらった支援金で勝てました』という報告が一番、いい(形だ)と思っています」
ワールドカップなど海外での経験を通じて、雪が降ったり、風が吹いたりすると、決して大きくない体が影響を受けやすいことを痛感した鍛治選手。これからは体幹を鍛えていくことなども必要になってきます。まずはリハビリに励み、競技復帰を果たしたあかつきには、良い報告で支援してくださる方々に感謝を伝えられるように。雪上でダイナミックなジャンプを描き続けることを誓います。
(取材・制作:4years.)