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「演技の美しさ」を表すEスコアに更なる磨きをかけ、新天地の鯖江から世界へ
- 2022年は、6月の福井県春季高校総合体育大会、11月の県高校新人大会で個人総合優勝を飾った楠元妃真選手。なかでも、8月の全国高校総合体育大会(インターハイ)と12月の全日本体操団体選手権では1年生ながら団体メンバーに選ばれ、ともに鯖江高校の団体初優勝に貢献するなど、充実したシーズンを送りました。
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「鯖江市は選手に最高の練習環境を与えてくれる街」
- 22年4月、大阪府河内長野市で生まれ育った楠元妃真選手が高校進学時に選んだのが福井県の鯖江高校でした。なぜ高校から府外に出ることになったかというと、福井県鯖江市は「体操のまち」として体操に力を入れている街。その中心となる鯖江高校は、多くの日本代表クラスの選手を輩出しているからです。
4歳で体操を始めるとすぐに競技のとりこになり、更に上をめざしたいと体操クラブの移籍を重ねる間、合宿で鯖江市を訪れたこともありました。そこで出会った鯖江高校女子体操部監督の田野辺満先生の指導を通して、これまでできなかった技ができるようになり、「鯖江で練習したことで、体操がこれまで以上に大好きになったんです」と楠元選手は明かします。「鯖江市は選手に最高の練習環境を与えてくれる街」。そう確信したことで、楠元選手の中でおのずと志望校が決まっていきました。
驚くのは、鯖江高校の体操部は午前中に普通に授業を受けた後、午後は体操の授業があること(週3日)。楠元選手も「体操に集中できる、体育館の設備も整っているので良かった」と環境の良さを実感しています。 -
- ▲22年のインターハイでは、個人総合でも2位と実力を発揮した楠元選手
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「美しい」と思ってもらえる演技が理想
- 体操の魅力とは。その質問に楠元選手は「美しいところ」と即答します。特に、ひざやつま先まで意識できている選手の演技は美しく、「私も、見た人に“美しい”と思ってもらえる演技ができるようになることが大きな目標です」と話します。
団体優勝した「いちご一会とちぎ国体」ですが、楠元選手は決勝の段違い平行棒の着地で右足中足骨を骨折しました。「けがの原因となってしまった降り技は得意な3回ひねり降りでした。現在は違う技に変更しています」。けがのリスクを回避することは必要です。しかし、楠元選手にとっては好きな技だったので、「またいつか演技に入れられたらいいな」と思っています。 -
「ノリに乗れた」自身初めての国際大会
- 23年になって、3月にはドイツのシュツットガルトで行なわれた「DTBチームカップ」の代表メンバーに選考され、自身初めての国際大会に出場しました。試合直前に手首を痛めてしまい思うような演技はできなかったものの全種目に出場し総合団体5位、個人では種目別の平均台で5位と健闘しました。「日本と全然盛り上がり方が違っていて楽しかった。観客の人たちもすごく盛り上がっていて、気分が上がる音楽も流れていてノリに乗れた」と、前向きにしっかり国際舞台を満喫し、「挑戦したい気持ちは大きくなりました」と楠元選手は振り返ります。
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- ▲22年の全日本種目別選手権の段違い平行棒は決勝4位も意識したEスコアは3位でした
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ひねり技以外に、ダイナミックな技にも挑戦
- 楠元選手には課題に感じていることがあります。それは「練習通りの演技をすること」。緊張するとどうしてもいつも通りの演技ができなかったり、演技が小さくなったりしてしまう。楠元選手は自信を植え付けることが大事だと考え、精度の高い練習を重ねるようにしています。大会前には本番のプログラムに沿った「通し」での練習を繰り返すことで自分を追い込み、自信を持って本番を迎えられるように備えています。
試合で初めてひねり技を成功させたのは小学3年生の5月。当時、通っていた体操クラブで基礎をしっかり学び、きれいなひねりができるようになっていきました。「得意技は後方伸身宙返り3回ひねりです」と楠元選手。中学生の頃から段違い平行棒(降り技)、平均台(降り技)、ゆかで3回ひねりを実施しています。さらに22年、高校1年生の4月に初挑戦したのが跳馬のユルチェンコ2回ひねり。技の難度を示すDスコアが高く、世界でも多くのトップ選手がこのユルチェンコ2回ひねりを実施しています。22年の全日本体操個人総合選手権、NHK杯ではともに跳馬は種目別1位でした。跳馬で高得点を獲得し、他の種目でも技の美しさを示すEスコアに磨きをかけることで、全国大会で優勝をとりにいきたいといいます。
国内、そして世界で実績を積み、めざすは24年の4年に1度の国際大会。技の精度を高めるとともに、新しい技の習得にも余念がありません。22年はひねりの精度を上げることを課題にしていましたが、現在は「ひねり以外にも、もっとダイナミックな技にも挑戦したいと思っています」と難易度の高い技を成功させるため、日々の鍛錬を怠りません。 -
2度目のプログラム参加、今度は仲間のためにも
- 楠元選手にとって明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」への参加は今回が2度目になります。最初は、河内長野市役所の文化・スポーツ振興課の担当者からプログラムのことを教えてもらいました。市役所担当者に福井県内の高校に進学する意向を伝えたところ、快く応援してもらえたことで、プログラムへの参加を決めたといいます。
「体操がマイナー競技であるためなかなかスポンサーがつかないこともあって、大きなチャンスになり得ると直感したんです。私がこのプログラムに参加して結果を出すことで、体操がとても魅力ある競技だということをひとりでも多くの人に知ってもらえるよう、応募したいと考えました」
22年のプログラムに参加して感じたのは、「たくさんの方に支援していただいて、すごくうれしかった」こと。23年も参加を希望したのは、引き続き大会結果や活動を発信することで体操をもっと知ってもらうため。そして、前回は支援金を海外遠征や練習器具の購入に役立てたいと話していましたが、今回、集まった支援金は「チームのみんなに何かしてあげられたらなと思っています」と目的が変わりました。
22年は団体4冠を達成した鯖江高校女子体操部。その勝因を楠元選手は「チームのメンバーと声をかけあいながらできたので、そのような結果になったのかなと思う」。12月の全日本体操団体選手権で7連覇中だった日本体育大学を抑えての勝利も「試合の前からみんな勝てると思っていて予定通り」と頼もしい。チームメートへの感謝を伝えるべく「アイシングで使える製氷機を買おうかな」と笑顔で語ってくれました。
高校入学を機に鯖江市に移住した楠元選手に鯖江市の魅力を聞いたところ、「のどかでリラックスできるところ」とのこと。そして、22年8月にはポメプー(ポメラニアン×トイプードル)の「ココちゃん」が新しい家族になりました。すでに「ナッツちゃん」がいますが、散歩ができるようになったココちゃんと出かける近所の土手もお気に入りの場所に加わりました。「練習で疲れていても、帰ったら癒やされて、かわいいです」と、ココちゃんも楠元選手の活力源になっています。
「体操競技は躍動感にあふれ、迫力のある競技なので、演技を通して体操競技の魅力を多くの方に伝えたい。団体連覇をして鯖江のまちに元気を、私も活躍することで日本全国に『体操のまち鯖江』を知ってもらいたい」と意気込みを語る楠元選手。
23年のシーズンが終わると、楠元選手たちの代が最高学年に。楠元選手にはエースとしての活躍が期待されますが、チームメートへの思いや鯖江に対する愛情、勝利への執念など、頼れるエースとなることに心配は不要のようです。
(取材・制作:4years.)