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父と二人三脚 強豪・韓国の壁を超えたい
- テコンドーの全国大会で3回の優勝を誇る大原隆世選手。現在は私立芦屋学園高校(兵庫県芦屋市)に通う3年生です。テコンドーの華麗な足技に惹きつけられたのは小学校3年生のとき。父親の剛(つよし)さんにすすめられたことがきっかけでした。神戸市内にある「ステイクールスポーツクラブ」で習いはじめると、すぐにミットを蹴ることに夢中になりました。
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勝者となる喜び追い求めて週6日の練習
- 当時は野球と掛け持ちでしたが、中学生になるとテコンドーに専念することにしました。「野球との両立は体力的に難しくて、テコンドーで勝負したいと思って決断しました。テコンドーは純粋にかっこよかったし、試合に勝つのがすごくうれしく感じられたからです」
マットの上で勝者となる喜びは、いまも変わりません。練習は週6日。自宅がある大阪市から神戸の道場までは往復2時間かかります。それでも、やめたくなったことは一度もなく、続ければ続けるほど、テコンドーの奥深さがわかるようになってきました。移動などの隙間時間では海外選手の動画をチェック。お手本とするイギリスのブラッドリー・シンデン選手の技は、これまでに数え切れないほど再生したとのこと。「日本一」のタイトルを得た17歳の目は、すでに世界に向いています。 -
- ▲小学校3年生で初めて臨んだ公式試合で銀メダルを獲得しました
- 2022年4月には初めての海外遠征を経験しました。世界中から強豪選手が集まるスペインオープンでは3位となり、銅メダルを獲得。初戦敗退も覚悟していましたが、予想を大きく上回る好成績を残すことができ、自信につながりました。
その結果を誰よりも喜び驚いたのは、ずっと二人三脚でテコンドーの道を歩んできた父親の剛さんでした。大原選手の最近の頑張りについて、剛さんは「手の届かない場所に行きつつあります」と感慨深そうに振り返ります。 -
土台築いた「第二の故郷」への思い
- 剛さんが成長著しい我が子を誇らしく思っているときのことでした。知人から明治安田生命が手がける「地元アスリート応援プログラム」について聞き、大原選手に伝えると、本人もすぐに興味を持ちました。
このときのことについて、大原選手は「多くの方にテコンドーを知ってもらえるチャンスだと思いました」。テコンドーの競技人口が少ない日本では大きな国際大会がほとんど開催されておらず、少しでも競技の普及に貢献したいとずっと考えていたそうです。「神戸の代表として頑張って試合で結果を残せば、関心を持ってくれて僕のことを応援してくれる人たちがもっと増えるかもしれない。テコンドーといえば、『神戸』と言ってもらえるくらい頑張りたい」と頼もしい言葉を口にした大原選手。目標に向かって頑張ることへの強い意欲をにじませています。
大阪生まれの大原選手にとって、神戸は「第二の故郷」だそうです。友人たちと一緒に遊ぶ場所も、神戸市内の三宮。甘いものに目がなく、休日に商店街のカフェでチョコレートパフェを食べることが楽しみの一つです。時には気分を変え、南京町で豚まんをほお張ることもあるそうです。
そしてなにより、神戸の道場で出会った指導者、仲間たちは大原選手にとってかけがえのない存在です。特に、元日本代表の森田柊コーチは心の支えになっています。「最近まで現役だったこともあり、試合で負けたときなど、選手の気持ちをとても良くわかってくれるんです」
テコンドー選手としての自分を育み、土台を築き上げた神戸への感謝の思いを忘れたことはないそうです。 -
- ▲最近の練習風景。足技に磨きをかけています(左)
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飛躍を支える父と母の後押し
- 実績も重ね、いまでこそ将来を嘱望される選手の一人になっていますが、選手たちの間で頭角を現す存在になれるまでには長い時間がかかりました。テコンドーをはじめた直後の小学生のころは負けてばかりでした。試合になるとガチガチに硬くなり、実力の半分も出せずに悔しい思いを何度も重ねてきました。
試合前は食事がのどを通らず、吐き気をもよおすこともありました。もともとプレッシャーに弱く、大原選手が苦しむ姿を見るたびに剛さんと母親の陽子さんが手を差し伸べ励ましてきました。「場数を踏ませるしかないと思い、各地で開かれるいろんな大会に連れて行きました」と剛さん。
大原選手が中学校に入学すると、剛さんはキャンピングカーを購入しました。自宅のある大阪市から仙台市まで運転して遠征におもむくこともありました。
全国行脚を重ね、大原選手に試合経験を積ませてきた効果はてきめん。緊張に悩まされることもなくなり、本番で練習通りの実力を出せるようになってきたそうです。そして、中学校3年生で迎えた2020年度の全国少年少女選抜大会で初優勝することができました。
「あのときはうれしかったですね。父もすごく喜んでくれました。しんどい時期もありましたが、感謝しています」と大原選手。この間、母親の陽子さんはスポーツ選手の食事づくりを考える「スポーツフードアドバイザー」の資格を取り、大原選手を支えてきました。選手にとって大切な試合前の体重コントロールを考えるのは陽子さんの役割です。そして大原選手は高校2年生のときにも同じ大会で全国制覇を果たし、名実ともに世代を代表する指折りの選手に成長することができました。 -
最高峰の大会で「発祥の地」の強豪に挑戦
- 大原選手は将来の目標について、「世界の舞台で活躍し、華やかな国際大会でメダルを取ること」と話します。めざすのは、2028年にアメリカのロサンゼルスで開かれる予定の世界最高峰の国際大会。テコンドーの日本男子で史上初となるメダルを本気で狙っています。高い壁となるのはテコンドー発祥の地、韓国の選手たち。
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- ▲公式試合で足技を決め、相手を倒す大原選手(左奥)
- 「国際大会で多くのメダルをとっている彼ら(韓国人選手)は、テコンドーに懸ける思いが違います。とてもハングリーです」と大原選手。強豪だけれども、対抗心は胸のなかで膨らむ一方です。「僕は負けたくないし、超えていきたい」。
強い韓国人選手に打ち勝つためにも、積極的に水準が高い海外の大会に出場していくことが必要だと考えています。当然、活動資金はかかります。日本代表の活動は全日本テコンドー協会の支援がありますが、個人で試合に参加する経費は自己負担になります。
「今回いただける支援金は遠征費用に充てるつもりです。海外で多くの経験を積み、今まで以上に僕は強くなります。応援していただければうれしいです」
純粋に夢を追う高校3年生の戦う姿に、ぜひ注目してください。
(取材・制作:4years)