-
家族や地元の応援を力に変えて、世界の舞台で活躍する!
- 急流に設定されたコースにゲートが設置され、パドルを駆使しつつ通過し、ゴールまでのスピードを競うカヌースラローム。この競技で2024年の切符をかけた戦いに挑戦しているのが、高校を卒業したばかりの18歳、斎藤彰太選手です。競技に集中するために大学進学はいったん横に置き、カヌーのことだけを考える毎日をおくっています。
-
家族全員で喜ぶために兄と違う種目に
- カヌースラロームは、パドルの形状によってカヤック(両側にブレードがあるパドルを使う)とカナディアン(ブレードが片側のみのものを使う)の2種目に分かれています。斎藤選手は、カナディアンで戦うアスリートの一人です。
-
- ▲斎藤選手はパドルのブレードが片側のみのカナディアン種目が専門です
小学校に入る前からカヌーに乗っていたという斎藤選手。急流のなかでスラロームの練習をはじめたのは小学4年生の頃でした。地元の相模原市に流れる道志川で練習を重ね、6年生の時に全国少年少女カヌー大会で全国大会初制覇。高校1年生でNHK杯2位のほか、日本代表(U23)にも選出。さらに21、22年にはA代表にも選ばれ、日本代表としてワールドカップを転戦しました。着実に成長を遂げている、カヌー界期待の若手選手の一人といえます。
両親と兄、弟2人との6人家族の斎藤家は、兄弟4人が全員カヌーの選手という、地元でも評判のカヌー一家です。3歳上の兄・康祐さんは、カヤックの日本代表で、斎藤選手にとって憧れの存在です。康祐さんが小学5、6年の時に、全国少年少女カヌー大会で圧勝した姿を今でも鮮明に覚えており、以来ずっと目標にしています。
ただし、斎藤選手は兄と異なるカナディアン種目での日本代表をめざしています。
「大きな国際大会の日本代表は1種目1人。どちらかが出られないのではなくて、2人で出たいと思いました。その方が家族全員で喜べるし、自分のうれしさも絶対に違います」
息子たちの活躍を見守るのは、父親の利久さん。神奈川県カヌー協会の理事長を務め、国体のスラローム神奈川県代表の監督も務めました。
「父はカヌー未経験でした。カヌーをうまくなりたいと思っていた私たちの思いに応えるため、勉強して指導者ライセンスを取得してくれました。自宅ではいつも練習動画を見ながら家族全員で話しています。スキーをやっていた母の意見も参考になっています。違う競技でも意外なところで共通点があるのが面白いです」
この家族の支えがあるからこそ、高校生だった斎藤選手は決断しました。
「 去年(22年)の段階で大学に行くことも考えてはいたんですけど、23年にはパリの出場に向けて選考会があるということで、カヌー一本に集中するため、大学には行かずに無所属でやらせてもらっています」 -
葛西のスラロームセンターがあれば世界と戦える
- 斎藤選手が、パリに向けてカヌーに集中しようと決断できた背景には、もう一つ大きな理由があります。
「22年の7月から葛西のスラロームセンターが使用できることになり、海外遠征に頼る必要がないと思えるほど整っており、トレーニング環境が世界のレベルにたどり着いたと実感しました。海外留学も考えたのですが、海外の選手をまねるのではなく、自分の新しい技術で世界と戦うという目標が、葛西のセンターがあれば実現可能だとコーチとともに判断し、23、24年はセンターを拠点に世界で戦っていくことにしました」
21年東京開催の国際大会のために作られた葛西のスラロームセンターは、カヌーの本場である欧州には多数あるという、カヌー競技者待望の人工カヌーコースです。カヌー競技は、ともすれば自然を利用したコースで開催される競技と思われがちですが、主に選手の安全面への配慮から、トップクラスの試合ほど人工のコースで開催されることが多いのです。斎藤選手は、この新しい環境を存分に生かすことにしたわけです。
もちろん斎藤選手のホームタウン、相模原市の道志川も変わらず練習場として使用します。
「道志川が使えるようになったのは、地元の方々の協力があってのことだったので、そういう意味でも地元の方々に感謝をしています。カヌーのできる川が日本では少なくて、練習場所を探すのも大変なんです」
道志川にカヌースラロームのコースが整備されたのは7年ほど前。相模原市のカヌー協会が主導で、神奈川県内初のスラロームコースを作りました。まだ小学生だった斎藤選手もコース整備を手伝い、石積みなどもしました。
「地元の道志川の方々が快く受け入れてくれて、練習できる環境を作っていただきました。そこで小学校、中学校とずっと練習できたからこそ、今の自分になれています。だからこそ、自分がしっかり結果を出して、活躍している姿を見てもらうことで恩返ししたいと思います」 -
- ▲地元の皆さんが整備してくれた道志川のコースは、自宅から車で20分ぐらいの場所にあります
-
相模原をカヌーの町にしたい
- 斎藤選手には夢が二つあります。一つは兄の康祐さんと一緒に4年に1度の国際大会に出場すること。そしてもう一つの夢が、生まれてからずっと暮らす相模原市に、カヌー文化を浸透させることです。
「競技者を増やすことがカヌーを広めることになります。だからこそ世界で成果を出してカヌー競技の魅力を伝えたいです。相模原市にはスプリントができる宮ヶ瀬湖もあれば、スラロームができる道志川もあります。カヌー競技を広めることで相模原市なら本格的にカヌーができると、相模原をカヌーの街として有名にしたいです」
明治安田生命の「地元アスリート応援プログラム」を知ったきっかけは、コース整備をはじめ協力してくれる地元の人々へ、恩を返したいという斎藤選手の思いを知る人から教えてもらったことでした。支援していただいたお金は、主に海外遠征の費用に充てる予定ですが、いずれはカヌー教室の開催などを通して地元へ還元したいと考えています。
「昨年も『地元アスリート応援プログラム』に参加させていただき、同じく世界で戦っているアスリートの思いも共有でき、プログラムを支えてくださる明治安田生命や地元の皆様が応援してくださったことが、この1年の私のモチベーションとなりました。23年も地元相模原の応援をしてくださる皆様と一緒に戦っていきたいと思います」 -
勝負は9月の世界選手権と10月のアジア選手権!
- さて、斎藤選手にとっては正念場の23年ですが、そうやすやすと念願の切符をとらせてはもらえません。
「今年4月に代表選考会が行なわれたのですが、ナショナルチーム(A代表)からは外れてしまいました。ただし、B代表の1番手にはなったので、パリへの道は途絶えてはいません」
また、先日のアジア選手権は残念ながら8位という結果となってしまったため、ワールドカップへの出場権もなくなってしまいました。ですが、日本カヌー連盟の方から新しく発表があり、世界選手権については出場枠に空きがある種目はB代表の上位選手から順に派遣されることになったので世界選手権へ出場できるようになりました。
現在の23年の目標は、9月に行なわれる世界選手権で国際大会への出場権を勝ちとること、そして10月に行なわれるアジア選手権でメダルを獲得することです。
「スラロームで勝つために大事なのが、川の流れを読んで、流れに合わせてあげることです。自分の力よりも流れの力のほうが強いので、流れに逆らってしまうとタイムは出ません。いかに流れを把握して、その流れを利用できるかが大事だと思います」
家族と地元の応援、道志川や葛西のスラロームセンターでの練習、世界各地を転戦して得たもの全てを力に変えて、斎藤選手は勝利をめざします。
(取材・制作:4years.) - ================
2024年2月29日をもちましてクラウドファンディングを終了いたしました。
ご支援をいただきまして、本当にありがとうございました!
■支援者一覧(順不同、敬称略)
河端則弘、明治安田生命 小林宗介、山田正史、田野倉、カズピロリン、よしこ、天文親父、リターンは一口分のみでお願いします、かねのもうじゃ、ちはる、らーめん処 歩や、後藤樹一