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兄とともに世界で活躍 自身の力で苦境の地元スキー場に人を呼び込む
- スノーボード・ハーフパイプの嶋﨑珀選手は、3歳年上の兄・玖選手とともに全日本スキー連盟の2023/24シーズンの強化指定選手(珀選手はU15)に選ばれ、将来を嘱望されています。物心がつく前から両親や兄と地元のゲレンデに通い、滑ることを楽しみながら技を磨いてきました。「スノーボードで地元の力になりたい」という思いを原動力に、自身の目標に向かって突き進みます。
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競技が「とにかく楽しい」 得意技はダブルコーク1080
- 半円筒状の雪上を滑り、ジャンプやターン、宙返りなどの技や高さで得点を競うスノーボードのハーフパイプ。豊岡南中学2年生の嶋﨑珀選手(兵庫県豊岡市出身/ヤマゼンロックザキッズ)は、これまで2022年の「JSBA 全日本スノーボード選手権大会」(北海道)や「WORLD ROOKIE TOUR FINAL」(オーストリア)で 優勝するなどの実績を重ね、この種目で次世代のホープと期待されています。
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- ▲スノーボードを始めた2歳のころの嶋﨑選手。地元の奥神鍋スキー場で
自身に記憶はないものの、「両親や3歳上の兄の影響で2歳からスノーボードを始めました」。幼稚園年長の時にハーフパイプを滑るようになり、日本スノーボード協会のバッジテスト(技術認定テスト)1級に当時国内最年少で合格。「とにかく滑ることが楽しく、ハーフパイプも恐怖心を感じることはなかった」と振り返ります。
様々なアクロバティックな技が繰り出されるハーフパイプで、嶋﨑選手は現在、空中で縦に2回転、横に3回転する「フロントサイドダブルコーク1080」と、このジャンプを利き足と逆で踏み切る「キャブダブルコーク1080」の両方を得意にしています。同世代で両方の技ができる選手は世界でも数人しかいないといいます。 -
「もっと成長して、地元に恩返ししたい」と応募を決意
- より高いレベルの舞台で活躍するには、遠征費や用具代、コーチング費など多額の費用がかかります。
「日本には、国際基準を満たしたハーフパイプがあるスキー場は北海道や青森など数ヶ所しかなく、シーズン中は大会でこれらを回ります。オフシーズンは、屋内施設がある山梨県や、エアマットを使う施設がある埼玉県や愛知県に行って練習しなければいけません。また、海外の大会に出場して、ランキングポイントを積み重ねていく必要もあります」
そんな中で、競技を支援してくれている企業経営者からの紹介で明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」を知りました。経済面で支援を受けたいというだけでなく、「僕自身がもっと成長して、地元に恩返ししたいと考えていたので、プログラムは自分の考えにぴったりだと思い応募しようと決めました」と話します。
印象的だったのは、前年のプログラム参加者たちの言葉でした。「サイトで昨年のプログラムに参加していた方たちの思いも見て、みなさんが地元への感謝を忘れず競技に打ち込んでいるからこそ、結果を残せるのだと感じました」 -
数々のゲレンデがホームグラウンド 自然豊かな豊岡市
- 嶋﨑選手の地元愛が強いのは、幼少の頃から家族で、豊岡市の奥神鍋やアップかんなべといった地元のスキー場によく通ったからです。「平日もお母さんと滑りに行ったり、仕事から帰ってくるお父さんを待ってナイターゲレンデに連れていってもらったりした」ことを今でも覚えています。
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- ▲小学3年生のとき米コロラド州の大会に最年少で出場した嶋﨑選手
頻繁に通ううちに、従業員らから「また来たね」と声をかけられたり、地元の大人とも顔見知りになって一緒に滑ったりするようになり、たくさんの方に温かく接していただいたそうです。
競技を長く続けていれば、うまく行かないことも少なくありません。でも、嶋﨑選手は「落ち込んだ時に自然に囲まれた豊岡に帰ってくると、風景やのんびりした雰囲気に心が安らぎます。学校で友だちや先生に会えるのもすごく楽しみです」と笑顔で語ります。国の特別天然記念物「コウノトリ」が生息する街としても知られる豊岡市は、日本海でとれる海の幸も豊富で、嶋﨑選手はお母さんが作る海鮮丼が大好物です。 -
怪我を乗り越え、技の習得には逃げずに立ち向かう
- ウィンタースポーツの世界で、「オフを制する者はシーズンを制する」と言われます。技術を磨き、体力アップを図るには、オフシーズンの鍛錬が欠かせません。
しかし、嶋﨑選手は小学3年生と4年生のオフシーズンに、それぞれ手首と肩を骨折してしまいました。けがをした直後は気持ちが沈みましたが、両親の「この怪我には意味があるんだよ」という言葉を支えに、「こういう時だからこそ、できることがある」と考えて、けがをした部位を使わずにできるトレーニングに取り組んだり、勉強に励んだり、音楽の良さを知ったりしました。地元の先生や友だちを始め、たくさんの人の温かさにも触れることができました。
また、ハーフパイプで高度な技を習得するには、何度も失敗を重ねますが、そこでは「逃げても仕方ない。動画を見てできるイメージを膨らませながら、どんどん自分から壁に当たっていく」ことを意識しています。苦労の末に技ができた時は、喜びの大きさもひとしおです。 -
平野歩夢・海祝兄弟にあこがれ 「強く魅力ある選手になる」
- 嶋﨑選手は、「国際スキー連盟が主催するコンチネンタルカップなどの国際大会で活躍する」ことをステップにして、「世界最高峰の大会でメダルを取ること」を最大の目標に掲げています。そのためにも「謙虚さと感謝の気持ちを忘れず、反復練習をがんばりたい」と述べ、今は縦2回転、横3回転半の「フロントサイドダブルコーク1260」の習得に突き進む日々です。
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- ▲中学1年で迎えた22/23シーズンも世界的なトップ選手が出場する大会で6位入賞するなど大活躍
あこがれの存在は、自身と同じく兄弟選手で、世界トップレベルで活躍する平野歩夢選手と弟の海祝選手です。「技術が高いのはもちろん、人にやさしく、地元を大切にして、競技に対してはストイック。人間的に魅力がある」からです。
「平野兄弟のような強く魅力ある選手になるために、学校生活も大切にして、人間性を高めていきたいです」と目を輝かせます。 -
苦境のスキー場に自身の活躍で活気を取り戻したい
- ここ数年、スキー場はコロナ禍や少雪・暖冬の影響で厳しい経営状況に頭を悩ませています。嶋﨑選手が通ったスキー場も例外ではなく、「僕もがんばって国内や世界で活躍することで、地元のスノースポーツファンを増やしたり、豊岡に人が来てくれるようなブームを起こしたりしたいです」と意気込んでいます。
大好きな地元に活気をもたらす――。そんな輝ける未来を見据えながら、嶋﨑選手は自身の競技力を高めていくつもりです。
(取材・制作:4years.)
※ヘッダー写真 @yaboo127